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主従関係(上下関係)を作らない理由

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「犬とは上下関係を築くことが大切です。」

「飼い主は犬よりも上の立場にならないといけません。」

昔から犬のしつけではこのように言われてきました。そして今でも多くのドッグトレーナーがこのように考えています。

 

しかしこのような主従関係(上下関係)を築く事こそ、多くの問題行動の原因となっていることをご存知ですか?

 

この主従関係という関係性がどのようなものかを、一度しっかりと考えてみましょう。

 

つつき順位という研究

愛犬との関係を考える上でとても参考になる研究があります。それは1920年代にノルウェーの動物学者Thorleif Schjelderup-Ebbeにより発表された“つつき順位”という序列に関する研究です。

まずお互いに面識のない数羽のニワトリを囲いの中に入れ、そこに食べ物を入れます。そうするとあちこちで食べ物を奪い合う争いが起こります。

食べ物を奪い合う争いを何度か繰り返していると、ニワトリたちのその争いの中に一定の法則が見られるようになりました。

具体的には、体が1番大きく力の強い個体がすべてのニワトリをつつき攻撃し、2番目に強いニワトリは、自分を攻撃した上位の個体以外のすべてのニワトリを攻撃しました。3番目に強いニワトリは自分を攻撃した1位と2位の個体以外のニワトリをすべて攻撃し、最下位から2番目の個体は、最下位のニワトリのみを攻撃しました。そして最下位の個体は全てのニワトリから攻撃を受けたという行動が観察されたのです。

 

ニワトリたちの争いがおさまった後、もう一度囲いの中に食べ物を入れても、争いが起こることはありませんでした。誰が優先して食べるかという事がはっきりとしたからです。体が大きく力の強い個体が優先的に食べ物を食べ、下位の個体は上位の個体の攻撃行動を避けるために従うようになりました。

 

このようにニワトリは上位のものが下位のものを攻撃することで直線状の序列を作ることが分かりました。そしてこのつつき順位の研究は他の動物でも行われ、序列の形成は特に哺乳類に多く見られたそうです。

niwatori

支配的序列は自然な行動ではない

しかしつつき順位の研究は人為的に作られた環境によるもので、自然の群れで見られるものと同じと考えるべきではないという意見があります。

もしつつき順位の研究で使われた囲いに扉があり、中のニワトリたちが自由に外に出ることができる環境だったらどうなっていたでしょうか。ニワトリたちはその場にとどまり序列を作ったでしょうか。

 

この疑問が動物との関係を考える上でとても重要になります。

 

動物たちが争いになりそうな時、彼らにはいくつかの選択肢があります。

1つは、その場にとどまり相手を迎え撃つということです。多くのニワトリたちはまずこの方法を選択しました。

2つ目は、その場から逃げるということです。しかしつつき順位の研究では囲いという閉鎖された環境で行われたため、ニワトリたちは自分を攻撃する相手から逃げることができませんでした。

3つ目の選択肢は、“顔をそむける”や“体を小さく見せる”“相手に従う”といった相手の攻撃行動を避けるための行動をします。つつき順位で争いに負けたニワトリたちは、この選択肢しか残されていませんでした。

 

攻撃的な行動は本来相手との距離をあけるために使われます。もし野生の群れの中でお互いが攻撃的に振る舞っていたら、群れが分裂してしまいます。上記のような支配的な序列はそこが逃げる事の出来ない閉鎖された環境だからこそ成立するのです。

 

動物の群れの仕組みがこの支配的な序列と同じだと誤解されることがよくあります。行動研究のために観察されている動物たちは、その多くが囲いの中で飼育されているためです。

犬たちの行動のモデルとなっていたオオカミの研究も、そのほとんどが囲いの中で飼育されているオオカミたちから情報を得ていました。ドッグトレーニングで昔から言われている「飼い主は犬より上の立場にならないといけない」という考え方はここから来ています。

 

今も続く支配的序列の思想

力の強いものが弱いものを従わせるという序列の関係性は、今日のアニマルトレーニングでも至る所で見られます。昔から行われている体罰を主体としたドッグトレーニングが良い例です。飼い主は犬よりも上位になるのに力強さを示さないといけないため、体罰や押さえつけるといった方法が頻繁に使われてきました。

ドッグトレーニング以外でも、日本伝統の猿回しの調教では調教師がサルのお腹に噛み付き、どちらが上かをはっきりさせてから調教に入るそうです。

アニマルトレーニングでこのような方法が多用されるのは、支配的序列が動物の集団の中にできる自然な仕組みだと未だに誤解されているからです。

 

支配的序列を作ることの弊害

つつき順位の研究と同じような“逃げられない環境”は容易に作ることができます。私たちのそばにいる犬たちにとって、リードに繋がれていたり、飼い主と同じ部屋にいたりする環境は逃げる事のできない閉鎖された環境と言えるでしょう。そこで飼い主が攻撃的に振る舞えば、犬たちは飼い主からの攻撃行動を避けるために指示に従うようになります。

しかしこのような関係を作っていると、散歩中にリードが外れた時、いくら呼んでも戻ってこないという事はなんら不思議な事ではありません。誰が好きでもない人のそばにいたいでしょうか。

猿回しに出演するサルたちが紐でつながれているのもいい例ですね。紐でつないでいないと逃げてしまうのでしょう。

イルカのトレーニングを思い浮かべてください。ドルフィントレーニングでは叩いたり脅したりすることはありません。正しい行動をした時に褒める合図を使って教えていきます。もしイルカに体罰を与えたり脅したりしたら、水中に潜って出てきてくれなくなるからです。

逃げることのできる環境では、支配的な序列を作って従わせることができないのです。

 

 

またつつき順位の研究では、閉鎖された環境にいる動物たちはより攻撃的になると考えられています。

つつき順位の研究で、上位のニワトリから攻撃を受けた個体は、下位の個体に対して同じように攻撃をしていました。もし飼い主が愛犬に対して力に従せるような関係を作ると、その愛犬はその場にいる家族や同居犬に対して同じように力で関係を作ろうとし、攻撃的に振る舞うでしょう。もしその対象があなたの大切な赤ちゃんならどうしますか?

 

昔から常識のように言われているこの主従関係といった支配的序列の関係性を、一度見直すべきではないでしょうか。

今日ではリーダーシップや信頼関係といった言葉でごまかされることが事がありますが、それらは力に従わせる序列を作った“服従”を目的としている事がほとんどです。

ドッグトレーナーが「主従関係が大切」と言うからといって鵜呑みにしないでください。

 

参照:LARS FÄLT 『Hundens språk och flockliv』、YRSA FRANZEN GORNERUP 『VARDAGSLYDNAD』


公開日:
最終更新日:2017/11/15

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